真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「わたくしの声には力強さがないわ」

「陛下。わたしは、あなたさまの気品に満ちた、風のそよぐようなお声を、とてもうつくしく感じます」

「ありがとう、ジュディス。でもね、お父さまのように勇猛果敢でなくては、人々はついてこないのよ」

「いいえ、きっとついてきます。あなたさまのお優しさ、可愛らしさ、愛嬌のある言葉選びは、わたしを筆頭に、確実に人々の心を掴んでまいりました」


言い募ったこちらに、女王は不意を突かれたように目を丸くした。


「あら……あなた、わたくしに心を掴まれていたの?」

「ええ、もちろんにございますわ」


陛下に初めて拝謁した日──女王ともあろうお方が市井に下り、あばら屋をお訪ねくださった日。


『わたくし、あなたの作品を読んだわ』


「あの日、窓がひとつしかないあの部屋には確かに、涼やかな風が吹き抜けておりました」


あなたが二百年後に生まれたなら、きっと小説を書いたでしょう。

あなたが百年前に生まれたなら、
きっと何も書けなかったでしょう。

しかしあなたはこの時代に生まれたゆえに、
あなたの文才は書簡で花開いたのです。


あのときから、わたしはこの方の薔薇、この方の真珠。
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