真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
世界を言祝(ことほ)ぐこと、治世を讃えることは、よい評判とともにわが国を大陸に知らしめる。

文化と伝統を重んじることは、それらを大切に思う人々の姿を示してくれる。


うつくしいものがあることは重要だわ。

でも、うつくしいものを喜び、尊んで形に残すことは、さらに重要だわ。


国は、文明の上に建つのだもの。


「わが国の有りようを世界に示す。それを重んじる文化的な素養ある人々を示す。そして、今このとき、確かにあのお方の時代があったと示すことで、わたしは間接的にはわが国を守り、名を高めていけると考えております」


歴史を書き留めるのは難しいこと。


勝者の歴史は輝かしく、敗者の歴史は手探りで、そして、滅んだ者の歴史は残らないわ。

女性の手によるものなら、なおさら。


けれど物珍しければ、あるいは言葉がうつくしければ、幾ばくか、歴史が形に残る可能性が高まる。

わたしの仕事は、陛下のご威光を高め、この国を守り、後世に伝えることと信じている。


「きみの文なら、いつでもうつくしいよ」

「……ありがとう存じます」


わたしの精一杯が、叶うなら、いつの時代にも受け入れられる余地があるといい。


冠を戴くために生まれた、かつての少女を思った。

わたしを召し上げた、風のように涼やかな女王を思った。


女王の情熱に仕え、世界を寿(ことほ)ぐ。


わたしは意思を透徹することをこそ求められている。わたしにも、家を守ること以外に、できることがある。


それが、嬉しかった。手が震えるほど、嬉しかったの。
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