真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
女王献上品リストを記録するところから、陛下の書簡を仕上げるところまで、あらゆる書物に関することを司った。


その中で、選りすぐりのできごとを書き留める。


わたしは顕彰するために選ばれたのだもの、あのお方の素晴らしさをできるだけ率直に書きたかった。

数や言葉を嵩増しすることで偉大さを示すのではなくて、事実の羅列をうつくしい言葉で書き記すことによって、陛下のご威光を確かにしたかった。


事実に基づいて文章の装飾を省く代わり、本の装飾にこだわる。


インクを混ぜ、絵と文字を混ぜ、楽譜と物語を混ぜ。

ある(ページ)には四線譜が踊り、ある頁には絵が描かれて縦横を走り回り、ある頁には優美なインクの取り合わせで赤と茶の文字が横たわっている。


文化の爛熟を思わせるうつくしい本で、今代の王を讃える。


この本よ長く続けと願うような、ひいては治世よ長くと祈るような。

容易には写せない、持っているだけで価値があるものとして作った。


この本は公刊されなかった。貴族の間でこっそり回覧された。

けれど評判を呼び、高位な者が高位な客人に見せることで、国外はもちろん、国外にまで自然と陛下のご威光が高まっていった。


陛下は声を大にして喧伝して回ったわけではない。


ただ静かに微笑む力、頷く力によって大国を維持できると、国内外に示したのである。
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