真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
わいわい言いながら執務室を出ると、少し離れた廊下にメルバーン卿が立っていた。


「ご機嫌よう、メルバーン卿」

「ご機嫌よう。仕事は終わったかな」

「はい、ちょうど終わりましたわ。……お待たせしてしまいました?」

「いや」


横に並んで歩き出したメルバーン卿から、ふわりとほのかに甘くスパイシーな香りがする。


わたしが暗い夜を打ち明けてから、メルバーン卿は随分と心配してくれるようになった。

仕事終わり、時間が許す際には女王の執務室に寄ってくれる。


メルバーン卿の部署はなにかと夜遅くまでかかることが多く、わたしの仕事終わりと時間が重なったら、そのまま部屋まで送ってくれる。

あまり待っていると目立つので、すぐにわたしが出てこなければ、無理せず自分の部屋に向かうようにしているらしいから、毎日会うわけではないけれど。


夜も更けた時間であまり目撃されないことと、断っても怖いだけでいいことはないという理由から、わたしは優しさに甘えている。


「先ほど陛下から、ドレスの色は白と青の組み合わせにしてもよいと勅許を賜りましたの」

「おめでとう。服装についての勅許は珍しいな」

「わたしがいろいろ疎いことをご心配なさったようなんです。随分と消極的な理由ですよ」


それは少し喜びにくいが、とメルバーン卿が笑いを堪えるような顔をした。


「勅許は勅許だ。めでたいことには変わりがない。おめでとう」

「ありがとう存じます」


ひとまずお礼を返したけれど、妙に納得がいかない。ううん、と心中唸るわたしを、メルバーン卿が静かに呼んだ。


「ジュディス文官」

「はい」

「きみに、ドレスを贈りたいと言ったら?」
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