真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
ドレスを贈るのは、婚約者だとか恋人だとか、親しい間柄のひとだけよ。

別段わたしが説かなくたって、メルバーン卿はそんなことも分からないような身分ではない。


つまりこれは、告白と同義なのだった。


思わず見上げた目の前の胸ポケットに花はない。男の節の高い両手はあいている。


ひとまず、少しずらした返事をする。


「着て行く場がございませんわ。箪笥の肥やしにしてもよろしくて?」

「王城で開かれる宴には行かないということかな」

「お仕着せを着る予定です」


ドレスの色は許されたけれど、資金がない以上、手持ちから選ぶならお仕着せ以外に選択肢がないわ。わたしは公の場で着られる私服なんて持っていないもの。


「たとえお仕着せを着ていたって、きみは絶対に会場の中心に借り出されるよ。きみは陛下の薔薇だろう。陛下が大事に仕舞い込むだけでは、きみと陛下の望みは叶わない」


きみを陛下のおそばに控えさせ、祝い客に紹介して顔合わせをさせるに決まっている。


「陛下のおそばに控えるようにというお話はありましたわ」

「そうだろうな」


王城には夢がある。陛下のそばでは夢叶う。そう、宣伝して回るのがわたしの仕事。
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