真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
黄色い声ににこにこと対応できる辺り、諸々手慣れている。そういう世慣れたひとからは距離を取っておくに限るわ。


わたしは文官で、侍女ではない。お城に仕事をしに来ているのであって、遊び相手や結婚相手を探しに来たわけではないもの。


何より、ウィリアムという、夫と同じ名が苦手だった。

あの窓辺の小さな机を頼りにしていた生活は、あまり思い出したくない。


生家のプリムローズを名乗っていても。

いくら女王がわたくしの薔薇と紹介してくれ、そのおかげで薔薇のきみと呼ばれるようになっても。

わたしは正式には、ジュディス・カイムのままだ。


離婚はそう簡単にできないのだもの。


左手の結婚指輪が見えないわけでもないだろうに、何くれとなく話しかけてくるのも、どうにも困る。


むしろ、既婚ならば情を深くしても後腐れなかろうと、そういう傍迷惑な思考なのかもしれなかった。


わたしは文筆がしたい。だから、仕事がしたい。


仕事以外の色恋沙汰は興味がない。夫がいるのにそういうことはしたくない。


何より、陛下の信頼を裏切り、ご迷惑をおかけするわけにはいかないわ。


薔薇のきみ、と呼ばれて三度目に、きゅ、と後ろを振り向いた。
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