真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「……なんです、メルバーン卿」


じとりと見上げる。


「とうとう部屋にまで押しかけるようになったのですか。なんですか、今日は。文句のひとつも言ってやろうという御用向きでしょうか」

「いいえ。伝書鳩になりに来たのです」

「……陛下からでしたか。それでは、謹んで承ります」


また大きなため息をつかれた。失礼な。


親しみを込めてより話を引き出そうとしてくれたのかもしれないけれど、こちらにはいい迷惑だわ。

からかう前に、普通に話してほしい。


「あなたもご存知の通り、陛下は、市井の状況に御心を砕かれています」

「はい」


からかったことを謝りもしないのね。

わたしとメルバーン卿は対等な文官なのに、家柄が違うからこんな対応をされるのかしら。


「人々の暮らしをよくするために、まずは身近な王宮の人々から話を聞いてほしいと仰せつかりました。それで、まさに一般的な市井の民であるあなたにも白羽の矢が立ち、私がその確認に来た、というわけです」

「分かりました。どちらに向かえばよろしいですか」

「私の執務室は共用ですが、それでもよろしければそちらへ」


共用は困る。個人的な話をせよという依頼なのに、人に聞かれるのでは話しにくい。

仕事のときは陛下の執務室にお邪魔しているから、わたし専用の執務室などないし……。
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