真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「ですが、あなたをご不快にさせたのなら、あれは悪手でした。謝ります」


ほんとうに礼を欠いていらっしゃるわね……!


謝ります、は意思表示であって、謝罪の言葉ではない。つまり全く謝ってない。謝ってはいないけれど、いいことにする。


「いえ、結構です」

「これからは、薔薇のきみではなく、正しいお名前でお呼びしたいと思います」

「いえ、結構です」

「ですから、お名前を教えていただきたいのですが」


嫌よ。にっっっこり笑って、唇を吊り上げる。


「申し訳ありませんが、両親から二十七歳の男性に名乗ってはならないと言いつけられておりまして。特にうつくしいと評判の殿方には注意をするようにと」

「それはまた随分と絞られますね。ちなみに私は二十九ですから、問題ないでしょう」


よくもまあいけしゃあしゃあと。

自分がうつくしい自覚のある二十九歳、やっぱり仕事ぶり以外はよく見られそうにない。
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