真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「あら、間違いました。二十九歳の方と、でしたわ」

「その言いつけを守っていては、仕事が成り立たないのでは?」

「わたしは女王の薔薇、陛下の書簡をお手伝いするのが役目です。王配殿下とは陛下がお話なさるのであって、男性とお話することはわたしの仕事に直接関わりありませんわ」

「今関わりがあるではありませんか」

「ですから困っているのです」


ちなみに夫は三十七である。十二歳差は珍しくないから不満はないけれど、頭が固いのは嬉しくない。


確かに困りましたねと頷いて、メルバーン卿は紅茶を傾けた。


「ジュディス嬢。いえ、カイム夫人」

「……嫌ですわ。もうすでに、わたしの名をご存知ではありませんか」

「『わたくしの薔薇、ジュディス・カイム——ジュディス・プリムローズ文官に話を聞いてきてちょうだい』というのが女王陛下のご命令です」

「陛下のご命令とあらばあなたとお話しないわけにはまいりませんが、名乗る必要はやはりないようですね」


……通り名も今の名も昔の名も、ばっちり知られている。


そうでしょうね。そこまで指定されなければ、このひとがわたしに聞きに来るとは思えない。
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