真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
長くなるから詳しい話は城でさせてちょうだい、と一旦話を切り上げられ、簡単に支度をして、迎えの馬車に乗る。

ついてこようとした夫は女王に「わたくしはジュディスに用があってよ」と一蹴された。


あのひとは、妻のことは自分が決めると思っている。

妻一人では善悪の判断ができないとか、失礼があってはいけないとかいろいろを言うのを、女王はたおやかな微笑みで退けてくれた。ありがたい。


馬車に揺られ、女王の執務室に通されて薄紅の紅茶を出されても、どこかまだ、頭がぼうっとしていた。


口をつけないのでは、まるで疑っているようで、逆に失礼になる。はず。


使用人をしていてよかった。

簡単なマナーを、お嬢さまと一緒にやるていで教えてもらっておいてよかった。


なんとかかんとか、失礼のない行動をひねり出す。


おそるおそる口をつけた紅茶は、見たことがないほど透き通っていて、ミルクを入れずとも渋くない。


茶葉は大変な高級品であり、庶民が買えるようなものではない。

それにも関わらずわたしが味を知っているのは、以前のお勤め先でご相伴に預かったことがあるからだ。


上流階級の人々が使った後の出涸らしを使用人が回収し、混ぜ物をして業者に売って、利益を掠め取ることもあると聞く。

まともな使用人たちと、まともな味の紅茶をいただいたことがあるのは幸いだった。

それでも、こんなに美しい色をしているのは初めてだけれど。


「ジュディス、改めて話をさせてちょうだい」


手慣れた様子で椅子に深く腰を落とした女王は、こちらの緊張をほぐすように、親しみを込めて穏やかに微笑んだ。


女王が言うことは、こうだった。
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