真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
わたしの驚きように、話がおかしな方向に転がっていると思い至ってくれたらしい。


「ああ、気になっていたというのは、……まあそういう意味もなくもないんだが、そうではなくて、どんな人なんだろうなと思ったということだ」


なくもないとは。


「全然訂正できてません」

「訂正ではなくて補足なんだ。怖がらせて申し訳ないが、きみを素敵だと思ったのは事実だから訂正しない」


いやその補足はいりません! 全然いりません! わたしは訂正していただきたかったですけどお……!


でも、そのうえで言い訳をさせてほしい、とメルバーン卿はあくまで真剣に続けているので何にも言えない。


わたしは自分がまた蔑ろにされるのではと心配になっただけで、メルバーン卿が憎いわけでも、茶化したいわけでもない。


からかわれているのでなく、理由があって、本人が真剣に説明しようとしているのだから、こちらも誠意を持ってきちんと聞くべきだわ。


「知っているかい。きみは当初、名前を聞かない日がないほど有名人だったよ」

「えっ」

「可愛らしい女性が、陛下御自ら招かれて文官に召し上げられたと、きみは城中で一躍有名になったんだ」


不埒な真似をしようとした男たちが、上手に退けられ、指輪を理由に断られたという話も聞こえるようになった。

鳴り物入りの女性は、たいへん身持ちの固い既婚者だと、すぐに広まった。
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