真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
献上した本を手繰って、女王は優しく微笑んだ。


「よい本ね、ジュディス」

「ありがとう存じます」


深く頭を下げる。


私信を政治的に使いたいと望んだのは女王。わたしはそのために精一杯のことをしてきた。

そして、全面的に助力し、価格を抑えるために手を尽くしてくれたのもまた、女王なのだった。


「この本は、淑女の手本になるわ」


確信に満ちた響きだった。親しみやすさを取り払った、為政者たる先見の明と威厳に満ちていた。


「ジュディス、わたくしの薔薇。この指南書が、あなたをひとかどの人物と国中に広めるでしょう」


本は、安くない。どれほど価格を抑えようとしたところで、手間もお金もかかる。


メルバーン卿は約束を守ってくれた。


進言が受け入れられ、紙などの税金が安くなったので、わたしがわがままを通しやすくなっただけ。趣味では作れない。


この本を国の事業として刊行する効果を議会で女王が何度も説明し、粘り強く予算を勝ち取り、今がある。


「あなたの名が広まることは、女性の文筆を豊かにする一助に、ひいては我が国を豊かにすることに繋がると、確信しています」

「はい。陛下が以前望んでくださったように、わたしが、先駆けになれたらと願っています」


そうね。そうなってほしいわね。


「わたくしの真珠、わたくしの第一の薔薇(プリムローズ)。わたくしは、あなたの忠義と善意をもっとも頼りにしているわ」
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