真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
この国の大抵の女性は、文字を読むことはできても、書くことができない。

男性の無筆率80%に対して、女性のそれは95%である。


文字を書けて、その形がきれいである女性は、たいへん少ない。

ましてや、うつくしく、たおやかで、男性の心をも掴むような文を書ける人は、あなたしか知らない。


「わたくし、日記はつけているのよ。読書をした、お祈りをした、散歩をした、などと事実を羅列しただけのものだけれど。でもね、女王が王配の関心を得るのに、これでは不足だろうということなの」


政略結婚とはいえ、夫との関係は冷やしたくない。

高雅な洗練を備えた美文がふさわしい。


けれど男性に頼んだのでは、女性らしさが出ないかもしれない。

縫い針を置いて、ペンを取った女性がふさわしい。


ついでに国民に親しみをもってほしい。

政治的効果を狙って、意図的に、恋愛ごとなどという個人的なことを開示するには、国民の大半と同じ、一般的な女性の感性が望ましい。


つまり、わたしはたいへんふさわしいので、女王の書簡を共に考えよと言うのである。
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