真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
わたしの願いは、たくさんの女性に読んでもらうこと。


当然ながら、本を写すのは誰にでもできる。文字が読めなくても、記号や絵に見えたとしても、正しく写せさえすればよい。

だから、わたしの本は、ものが書ける人になら誰にでも作り出すことができた。


基本的には、値段を抑えて大量生産するべく、さまざまな人によって写されているけれど、わたしも仕事の合間にせっせと写す。


わたしが書いたものは価値があるだとかで、値段が釣り上がっている。


真珠と薔薇が代名詞とはいえ、今までわたしはあくまで「薔薇のきみ」だった。

女王がわたくしのプリムローズと呼んではばからなかったから。


でも今は、本のおかげというべきか、そこに新たに「真珠のきみ」という通り名が加わった。


……貴族令嬢ではないわたしが、まさか、淑女の手本たれと言われるようになるだなんて。不思議なご縁もあるものだわ。


「よい本を作ったあなたには、褒美が必要だわ。ジュディス、なにか希望はあって?」


召し上げていただいたとき、わたしがなにも希望を言わなかったので、首飾りなどの実用品を贈っていただいた。


仕事を本格的に始めて認められた今は、なにもお願いしないのもかえって感じが悪いだろう。

できれば陛下にもよい効果があるような、なるべく負担が少なくて邪魔にならないものをお願いしたいところである。


必死に頭を巡らせて、口を開く。


「ありがとう存じます、陛下。では、恐れながらおうかがいいたしますが、わたしに教師をつけていただけないでしょうか」


わたしは主に夜に仕事が詰まっている。日が高いうちは暇を持て余しているのだから、その間に勉強したい。


「あなたに? わたくしは、あなたは物事を充分よく分かっていると思っているのだけれど……」

「ありがとう存じます。ですが、人の世はさまざま変わるもの」


わたしの今は、いつかの過去です。
< 50 / 174 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop