真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
世間話──悪く言えば噂話の話題に挙げられているのは、どう考えてもわたし。


よく通る声なのか、元が大きい声なのか。それとも、ささやき声は、かえって静かな廊下に響いて気になりやすいのか。


ひそめきれていない話の続きを聞くべく、耳をそばだてる。


「仕事熱心なのはいいけどさあ、女だてらにっていうのはちょっと気圧されるわ」

「あー、分かるかも。別に態度とか見た目とかは賢しらじゃないんだけど、やってることはちょっと厳ついっていうか。写本とか翻訳本とかじゃなくて、自分で書いて本出してるらしいじゃん」

「陛下に言われたんだってな。俺はもし薔薇のきみが自分の婚約者とか身内とかだったら、文官として重用されてるのを羨ましく思う自信がある」

「明らかに陛下の覚えめでたいもんな。首飾りも耳飾りも陛下からなんだろ」

「毎日つけてるのすごいよな。陛下にいただいたんだから、つけないわけにもいかないんだろうけどさ。俺は見かけるたびにあの薔薇の髪はどうやってんだろと思ってるわ」


普通に結んでいますけれども。シニヨンはほつれにくくて仕事がしやすい髪型よ。


自分の寸評を聞くのは、なんだか不思議な気持ちになる。


陛下のおかげで面と向かっては言われないけれど、やっぱり、わたしの仕事をあまりよく思わないひとはいるんだわ。


「ウィルは婚約者いんの? 自分の婚約者がもし薔薇のきみみたいな人だったらどうよ」


どきりとした。ウィルというのは、律儀に沈黙を貫いていたメルバーン卿のことに違いない。
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