真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「私に婚約者はいないよ」

「えっお前の年で!? 社会的地位があって見目がよくて仕事もできるやつがなんで売れ残ってんの!?」


むしろ結婚してるのかと思ってたわ、と一際大きな声の後、スパーンとどこかを叩くような音がした。


「ばっかお前、ウィルがすごすぎて逆に誰もいけないんだろ!」


そうよね。こんなよくできた次期公爵に釣り合うなんて無理だと、大抵の場合は遠慮するだろう。結婚して子どもがいてもおかしくないくらいだわ。


「いや、以前はいたんだが、解消になったんだ。お相手の都合で難しくなってしまって」

「へえー! もう家のことを考えなきゃいけない頃合いだろ、ウィルも。たいへんだなあ」

「そうだな、家の存続は重要課題だ」


だから。


「私がいいという女性がいない以上、私などでもいいと言ってくれる方にお願いするような形になるだろうから、せめてお相手のよいところを見つけたいと思っているよ」

「いや、ウィルが嫌な人なんていないって」

「いるから現状こうなっていると思っているんだが……私相手が嫌な女性ばかりなんだと思うんだが……」

「いないって!」

「ほんとうに相手がいないんだ、私は。いっそのこと分家から養子を取ってもいいくらいで……」


声の大きな人が、力強く説得している。


相手がいないのは、周囲の環境やご本人の状況がそうさせていると思うのよね。

猫の鈴のように女性たちの声が群がるメルバーン卿が、結婚できていない──もしくはできるけれどしていない、というのは、余計に競争を苛烈化しているような気がする。
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