真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
あまり立ち聞きするのもよくない。どうにか壁から離した体が、ふらりとよろめく。


も、も、申し訳ないことを聞いてしまったわ。

こんな寄り道をしている場合ではないし、そもそも同僚の恋愛観や結婚観など聞いてはいけないし、いやでも自分のことが聞こえたらだれだって気になるわよね……!?


でも、ほんとうに申し訳ないことを……。わたしったら何をして……!


ほう、と冷えた息をそっと逃した。


わたしは言葉が好きだ、とこういうときに思う。


言葉選びは、そのひとを丸ごと活写する。なにを言うかは、そのひとをそのひとたらしめる。


わたしは陛下の薔薇。薔薇のように優美であれたらと、分厚い資料を握りしめた。
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