真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
……女王は触れなかったけれど、御自らわざわざ家にまで顔を見に来たのだから、外見も審査に入っている。


わたしの器量が中の上、貴族の使用人がつとまる程度には崩れていなかったことも関係しているでしょうね。


くすんではいるものの、市政にあっては珍しく、金色をした髪なのがよかったのかもしれないわ。

癖毛の巻き毛も、それとなく上品に見えると以前奥さまに褒めていただいて、それであのお屋敷の使用人になれたんだもの。


女王のそばで仕事をするにあたっては、女性は衆目を集めるほどうつくしくあってはならず、人との交流を厭うほど不器量であってはいけない。


万が一、王配殿下や周囲の男性と間違いがあっては、面倒なことになるから。


執務室に招かれたということは、きれいでもなく醜くもなく、普通でよろしいということ。合格したということである。


女王は穏やかなまま、口数多くこちらを褒めた。


「わたくし、あなたの文章を、匂い立つ薔薇のようだと思ったわ」


あなたに似て、控えめだけれど、しとやかで赤く、深い情熱に燃えている。


「……あなたはほんとうに、うつくしい文を書くのね」


現在、我が国における女性の文筆の範囲はきわめて狭いのよ。


翻訳、書簡、日記、献辞、弔辞の類しか認められず、主題は家庭と宗教に絞られ、日記は事実の羅列。

それゆえ書簡は、あなたの文才を発揮しやすかったのでしょうけれど。


「わたくし、あなたが男性でないことを、嬉しく思うわ」
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