真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「たいへんよい方だとは思いますが、わたしなどでは……そもそも、メルバーン卿のお考えもありますから……」

「だ、そうよ」


お入りなさい、と女王が扉の向こうに呼びかけると、静かに扉が開いた。


困ったような顔をして、うつくしい男が立っている。


「メルバーン卿……!」


待って。どうして。ノブが回る音が、しなかった。


「ごめんなさいね、ジュディス。わたくしが命じたの」


先ほどの耳打ちは、こうだ。


ジュディスのことが気になるなら、扉を少しだけ開けておきなさい。

そして、自分の執務室に下がらずに扉のところにいて、そのままこちらの話を聞いておきなさい——


「では……」

「すまない。聞いた。きみの話を、聞きたかった」


そもそも、メルバーン卿が来たことがおかしかったのだわ。


城で働き始めてからこのかた、一度も陛下の執務室で一緒になったことはない。


それに、法律の話がそんなにすぐに終わるのはおかしい。


すぐに終わるのなら、わざわざわたしがいるだろうと分かっている時間、いつも女王が書簡を認める時間に来る必要はないもの。
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