真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
『ジュディス。きみの手紙が欲しい』


だめだ。思い出しただけでだめ。


真剣な眼差し。低い声。熱にうなされたみたいに、上がった体温。


あのときはあんなに怯えたあれは、ただ純粋にわたしを認め、手紙を望んだだけだと知ってしまった今、わたしはこのひとが、嫌ではないのだもの。


カッと顔が熱くなる。


「あら。わたしが余計なことをするまでもなかったかしら?」


こちらの耳まで赤いのを不思議そうに見た女王が、「そうよね、人当たりのいいジュディスがまったく話さないなんて、何かあると思っていたのよ」とひとりごちている。


その何かが、嫌いすぎて無理だとかだったらどうするんですか陛下、

というか翻せばわたしは嫌いじゃないから困っているということ……!? 待って……!


「いえ、余計なこととは思いません。感謝申し上げます、陛下」


ばたばた散らばる思考を遮って、ジュディス文官、と低い声が名前を呼んだ。


……だめ。気づくとだめ。


カッともう一段熱が上がる。


このひとは、声までいい。


「メ、メルバーン卿」


多くの人はわたしを、真珠のきみ、もしくは薔薇のきみと呼ぶようになった。

そんななか、メルバーン卿はわたしをジュディス文官と呼ぶ。


カイム夫人でも、カイム文官でもないことに、当然女王も気づいて瞬きをした。
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