真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
……耐えられない。


「へ、陛下!」


ヘイゼルから、勢いよく視線を逸らす。


「なあに、ジュディス」


女王はうつくしい扇子をパチリと閉じた。


急いでカーテシーをする。


「恐れながら申し上げます。御前を失礼してもよろし」

「陛下。この時間、空き部屋はたくさんあるかと思います。そのうちのひとつを、ジュディス文官と私とで、お借りしてもよろしいでしょうか」


こちらの慌ただしい申し出を、メルバーン卿が穏やかに遮った。


「メルバーン卿、もちろんよくってよ。扉に薔薇をおかけなさい」


途中で遮られて途切れたとはいえ、何が言いたいか分かったはず。


それなのに、女王はこちらに返事をせずに、メルバーン卿に入室禁止の板をにこにこ手渡している。


薔薇は最優先事項のときにだけ使う、絶対入室禁止の札である。

破ると謹慎処分と減給が待っている。


……本気すぎます、陛下。


「仕事はここまでよ、ジュディス。書簡は残りを仕上げておきます。あなたはメルバーン卿とご一緒なさい」

「へ、へい、陛下……!」


がくがくと、カーテシーをしたままの足が震えた。


なんてことを、なんてことをおっしゃるんです……!
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