真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
「あらジュディス、命じた方がよくって?」

「いえ、陛下。私は、無理に連れ出したいとは思いません。ご配慮は嬉しいのですが、どうか命じるのはおやめください」


小首を傾げて追撃しようとした女王を止めたのは、申し出たメルバーン卿本人だった。


「ジュディス文官、そう泣きそうな顔をしないでくれ」


頼むから、と低い声がなだめるように落ちた。


「嫌なら断ってくれて構わない。私はきみを、怖がらせたいわけじゃないんだ」


ハッとした。


そうだわ。そうよ。このひとは、言葉選びが下手なのだった。


その分、ちゃんとわたしが、言わなくちゃ。


「いいえ、嫌なわけでも、怖がっているわけでもないのです。その、混乱していて……」

「ありがとう。それで十分だ」


メルバーン卿の形のよい唇が、ほっとしたように緩んだ。


「あなたと二人で話がしたい。来てくれるだろうか」

「……ええ」


陛下に二人で礼をし、執務室を出た。


差し出された手を取る。大きな手は、わたしに負けず劣らず、熱かった。
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