真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
城の空いた一室を借りる。


「まず、きみに謝りたい」


部屋に入ってすぐ、深く頭からを下げられた。


「陛下に呼ばれたとき、きっときみがいると分かっていて行った。陛下の提案も、断れたのに全部聞いた。すまなかった」

「いいえ。謝っていただくことではございません」


陛下のいたずらには驚いたけれど、メルバーン卿が悪いとは、ほんとうに思っていない。


「ジュディス文官、札をかけても?」


指先で札を数度転がした後、メルバーン卿は困ったようにこちらを伺った。


「ええ。陛下からそうなさいと仰せつかったのですもの。そのようにいたしましょう」

「札をかけるということは、鍵をかけるということなんだが……」

「存じておりますわ。札も鍵も、かけましょう」


分かってついてきたのはわたし。


陛下の札がかかっているのだから、二人きりでいてそしられることはない。

メルバーン卿が気にしているのは、わたしの薬指だ。


「……きみは、それでいいかい?」

「ええ」

「ありがとう」


申し訳なさそうに薔薇の札と鍵をかけたメルバーン卿は、手慣れた仕草でこちらの分の椅子を引いた。


わたしを座らせた後、向かいに腰掛け、節の高い指が取り出したのは、見慣れた箱入りの本。


それも写しではなく、わたしの筆跡の方だった。
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