真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
さすが公爵家。入手するのはたいへんだったはずだわ。


「お読みいただき、ありがとう存じます」 

「きみの仕事ぶりを知りたくてね」


最近では、興味を惹かれた男性が読むこともあると聞く。


恋人や妻にねだられて、甲斐性を見せるために買う男性もいるという。メルバーン卿が読んでいても不思議ではない。


「いかがでしたか。お気に召しまして?」

「きみの筆跡は相変わらず、とてもうつくしいな。そして細やかで熱烈な内容だった」


その褒め言葉こそが熱烈な響きをしていた。


深くて静かな熾火に似ている。

燃えさかる温度は、メルバーン卿の生来の穏やかさで包まれて、一見それとは分かりにくくなっていた。


「ありがとう存じます。光栄です」


一度沈黙が落ちた。

言葉を選んで探るような沈黙に、お互い息を詰める。


「ジュディス文官」

「はい」

「もし、……もし、きみが。城を辞すようなことがあれば、うちで働かないか」


にこりと笑った。ありがとう存じますとも言えなかった。


わたしには、微笑む以外の選択肢がない。
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