真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
メルバーン卿、と一呼吸置いて呼びかけたわたしの声は、望んだ通りに凪いでいた。
「陛下はわたしを、幾度か、お褒めくださったことがあります」
あなたが二百年後に生まれたなら、きっと小説を書いたでしょう。
あなたが百年前に生まれたなら、 きっと何も書けなかったでしょう。
しかしあなたはこの時代に生まれたゆえに、 あなたの文才は書簡で花開いたのです。
「わたしはあのときから、陛下の真珠、陛下の薔薇なのです」
メルバーン卿が泣きそうな顔をする。
わたしは笑えているはずだった。笑えていなければいけなかった。
「わたしが城を辞すのは、陛下が御退位なさるときです」
つまりは崩御である。
「どうか、滅多なことを仰らないでください」
聞かなかったことにいたします。
つけ足しに、目の前のうつくしい男はそうっと目を伏せた。
「では、こう聞こう。プリムローズに戻ってはくれないか」
「戻りたいとは思います。ですがそれは、あなたに乞われたためではありません」
「分かっている。きみの誇りのためにだろう」
「……ええ」
ずるいひと。言葉選びが下手だなんて嘘。
ここで誇りと言ってくれるひとだから、わたしはこのひとを振り切れない。
「陛下はわたしを、幾度か、お褒めくださったことがあります」
あなたが二百年後に生まれたなら、きっと小説を書いたでしょう。
あなたが百年前に生まれたなら、 きっと何も書けなかったでしょう。
しかしあなたはこの時代に生まれたゆえに、 あなたの文才は書簡で花開いたのです。
「わたしはあのときから、陛下の真珠、陛下の薔薇なのです」
メルバーン卿が泣きそうな顔をする。
わたしは笑えているはずだった。笑えていなければいけなかった。
「わたしが城を辞すのは、陛下が御退位なさるときです」
つまりは崩御である。
「どうか、滅多なことを仰らないでください」
聞かなかったことにいたします。
つけ足しに、目の前のうつくしい男はそうっと目を伏せた。
「では、こう聞こう。プリムローズに戻ってはくれないか」
「戻りたいとは思います。ですがそれは、あなたに乞われたためではありません」
「分かっている。きみの誇りのためにだろう」
「……ええ」
ずるいひと。言葉選びが下手だなんて嘘。
ここで誇りと言ってくれるひとだから、わたしはこのひとを振り切れない。