真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
ちょうどいいわ、とにこにこ微笑まれるので何かと思ったら、陛下はわたしのために、書簡卿という一代限りの爵位をほんとうにあつらえてくださったらしい。

軽い調子で叙爵の話をされてしまった。


病気と悪口以外はありがたくいただくのが信条なのだけれど、さすがに目まぐるしすぎて、ついていけない。


直答は最初から許されている。ではなにが変わるかと言えば、王族への直奏権を持つということ。

誰に咎められることもなく、呼び出しがなくとも女王陛下や王太子殿下の執務室に直接行くことができるようになる。

わたしはきっと、うまく使えないでしょうけれど。


でも、直奏権があるとないとでは大違いだわ。いざというとき、誰かを通してからでは遅いもの。


「あなた、領地があっても困るでしょう。わたくしも、あなたには王城にいてもらわないと困るもの。ですから、爵位だけよ。栄誉と地位と、わずかな給金だけ」


つまりそれは、陛下のお気に入りだと、対外的に示すための叙爵ということ。拝辞はあり得ない。


「受けてくれるわね?」

「ありがたく拝受いたします」


お茶とお菓子を味も分からないままにいただいてしばらく、女王の執務室に煌びやかな文官が訪ねてきた。


その手元の盆には、わたしが記入し、陛下が上書きした離婚申請書と、その奇妙な申請が確かに受理されたという旨の書類があり、今度こそわたしはプリムローズに戻った。


満足気に頷いた陛下によって、その文官は返す足で叙爵のための諸々を持ってくるよう命じられ、わたしはお茶菓子とともに即座に叙爵された。


……なんとも締まらないわ。そしてやっぱり、爵位の給金というか月ごとのお手当というかの金額が、全然わずかではない。紙もペンもインクも買い放題じゃないの。
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