真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
紋章も新しく作るということで希望を聞かれた。


全然思いつかなかったので、穏当に「わたしは陛下の薔薇、陛下の真珠でありとうございます」と答えておく。


「わたくしの薔薇(プリムローズ)。あなたはほんとうに、言葉選びに長けた人ね。わたくしを喜ばせるのが上手だわ」

「陛下のご配慮に満ちた日々ゆえにございますわ。幼い頃からひっそりと折り重ねた幻想が、これより確かな事実へ転じていくのだということに、わたし自身も欣幸(きんこう)の至りに堪えません」


陛下は扇子の向こうで軽やかに笑った。


「わたくし、あなたを一番の薔薇に選んだわたくしの慧眼を誇りに思うわ」


そのような問答を経て、紋章画家に実質丸ごとお任せしたのだけれど、素晴らしい出来栄えよ。


中心に細身のペンが二本交差し、その周りをぐるりと眩い真珠が二連、さらに外側を薔薇が囲んでいる形にしてくれた。薔薇の真紅が映える美しい彩りだわ。


わたしは文官、武勇はからっきしだから、盾や剣はモチーフに使えない。その代わり、丸みを帯びた、可愛らしくも優雅で芯のあるデザインにしてくれて満足している。


紋章の完成をご報告すると、陛下は王室御用達の店主たちを即座に呼び寄せた。

文官のお仕着せの襟元はもちろん、特別に便箋や封筒、ハンカチなどにも同じ紋章の刺繍を入れるよう発注し、わたしだけの諸々を一通り揃えてくださった。


特に書き物に使うあれこれが多いのは、陛下の御下知によりわたしの栄誉をかけた本を出しているから、というのが理由らしい。


書き物の内容だけでなく、今後は爵位に合わせて書く道具の見た目にもこだわるべきだとか。でもそれは、きっと建前だわ。

わたしの役目は、初めから変わっていないもの。


王室御用達の店に、淑女の見本たるわたしがお願いしたのよ。紋章なしでも、似たような道具が、当然飛ぶように売れるでしょう。

陛下は初めから、産業の活性化と女性の活躍の場を広げる狙いで指定したのだと思う。
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