真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
その日、わたしはどうしても欲しい花を探して、城の中をうろうろと彷徨っていた。


古いご友人の一等好きなお花を、その方に宛てる書簡に添えたいという陛下のご用命なの。

「お誕生日のお祝いにふさわしい、素晴らしいご配慮ですね。きっとお喜びになりますわ」と拝命した。期限はひと月。


陛下はお誕生日を大事になさる方で、お祝いを欠かさない。わたしにもいろいろとくださったから、陛下のお誕生日には、わたしからお祝いの詩をお贈りしている。

わたしの専門性はやっぱり文章を書くことだもの。


陛下は私信を公開しているのもあって、何かと行動が詳らかにされやすい。親しみやすいせいで、かえってやりにくいこともあって。


陛下が商人を呼べば、そのご友人にまで噂が届いてしまう。わたしがこっそり探した方が、まだしも秘密が守られる。


陛下は、ご友人のお誕生日のお祝いくらい、その方と二人きり、私信のままにしたいのですって。


いざとなれば噂になる覚悟で商人に頼むけれど、「あなたの目で見て、よいと思うものを選りすぐって来てちょうだい」と言われれば、拝命する以外にない。


せっかく専門の係がいるのだから、という陛下の人使いの荒さにより、わたしは近頃、書簡に関する何でも屋さんになりつつあると思うわ。
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