真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
あちらも気づいて、静かな会釈をされた。
「ご機嫌よう、ジュディス文官」
「ご機嫌よう、メルバーン卿」
立ち止まってカーテシーをすると、涼やかな目線がお仕着せの襟元で留まった。
「この度はおめでとうございます。謹んでお喜び申し上げます」
手慣れたお祝いだわ。生まれながらの貴族だから、こういう場面はたくさん経験してきたのでしょうね。
「お祝いをありがとうございます。不慣れな身ですので、どうぞご指導ご鞭撻くださいますようお願い申し上げます」
噛まないように気をつけて定型文を返すと、周囲をちらりと見遣って誰もいないことを確認したメルバーン卿は、笑いを堪えるように口元を押さえ、畏まった口調を崩した。
「ジュディス文官、同僚にご指導ご鞭撻はあまり言わないよ。精一杯努めてまいりますくらいで構わない」
「申し訳ありません」
「いいや」
相手がメルバーン卿でよかった。失敗を変に吹聴するような意地悪はしないもの。
メルバーン卿は高位の男性であることを踏まえて言葉を選んだのだけれど、職場で仕事中に偶然会った場合には、仕事の同僚の立場を基本にしてよいのね。
以前陛下につけていただいた先生に教わった通りにしたはずなのだけれど、こう、会話は相手によって変わるところが大きいから、定型文だと対応しきれない。難しい。
「ご機嫌よう、ジュディス文官」
「ご機嫌よう、メルバーン卿」
立ち止まってカーテシーをすると、涼やかな目線がお仕着せの襟元で留まった。
「この度はおめでとうございます。謹んでお喜び申し上げます」
手慣れたお祝いだわ。生まれながらの貴族だから、こういう場面はたくさん経験してきたのでしょうね。
「お祝いをありがとうございます。不慣れな身ですので、どうぞご指導ご鞭撻くださいますようお願い申し上げます」
噛まないように気をつけて定型文を返すと、周囲をちらりと見遣って誰もいないことを確認したメルバーン卿は、笑いを堪えるように口元を押さえ、畏まった口調を崩した。
「ジュディス文官、同僚にご指導ご鞭撻はあまり言わないよ。精一杯努めてまいりますくらいで構わない」
「申し訳ありません」
「いいや」
相手がメルバーン卿でよかった。失敗を変に吹聴するような意地悪はしないもの。
メルバーン卿は高位の男性であることを踏まえて言葉を選んだのだけれど、職場で仕事中に偶然会った場合には、仕事の同僚の立場を基本にしてよいのね。
以前陛下につけていただいた先生に教わった通りにしたはずなのだけれど、こう、会話は相手によって変わるところが大きいから、定型文だと対応しきれない。難しい。