真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
メルバーン卿は礼儀正しく、わたしの離婚については触れなかった。
代わりにわたしが彷徨っていた目的を聞き出し、「きみさえよければ、我が家に招待しようか」と微笑んだ。
こういうところが、このひとが有能である証。話が早い。
「我が公爵家は、叔母がそちらに嫁いでいる関係で、かの国と縁が深いんだ。叔母との思い出にと母が株分けしてもらったから、実家にはお望みの花がある。まさしく温室で庭師が手入れしているはずだ」
わたしは運に恵まれてきたけれど、今回も運がいいわ。
公爵夫人なら、身元がしっかりしているから提供先として不安がない。
そういう対応も慣れてらっしゃるだろうから、陛下のご意向を説明してお願いすれば、きちんと秘密にしてくださるに違いない。
そのうえ、公爵家の威信にかけて、質のよいものを譲ってくださるでしょう。
「母に頼めば、喜んで陛下に献上すると思う。ただ、陛下のお言葉を鑑みると、私が持って来て渡すよりは、きみが直接温室の中から選んだ方がいいのだろうな」
付き添うよ、と軽く言われて、目をしばたたく。
「よろしいのですか?」
「もちろんだとも」
「でも、お忙しいでしょう。わたしからももちろんお願いのお手紙を差し上げますが、先触れさえ出していただけましたら、わたしひとりで伺いますが……」
夜に女王のおそばに侍るわたしと違って、メルバーン卿は昼間が多忙な仕事。いくらご実家とはいえ、準備もなしに帰るとは思えない。
仕事だって調整して空けなくっちゃいけないし、と気遣ったつもりの発言は、ジュディス文官、と厳しい笑顔で止められた。
「仕事とはいえ、お客さまをお招きするのに、付き添わない理由はないよ。ましてや勝手知ったる家だ。私をものの道理の分からぬ愚か者にしないでくれ」
ハイ、すみません。逆に評判を下げるんですね。やめます。
代わりにわたしが彷徨っていた目的を聞き出し、「きみさえよければ、我が家に招待しようか」と微笑んだ。
こういうところが、このひとが有能である証。話が早い。
「我が公爵家は、叔母がそちらに嫁いでいる関係で、かの国と縁が深いんだ。叔母との思い出にと母が株分けしてもらったから、実家にはお望みの花がある。まさしく温室で庭師が手入れしているはずだ」
わたしは運に恵まれてきたけれど、今回も運がいいわ。
公爵夫人なら、身元がしっかりしているから提供先として不安がない。
そういう対応も慣れてらっしゃるだろうから、陛下のご意向を説明してお願いすれば、きちんと秘密にしてくださるに違いない。
そのうえ、公爵家の威信にかけて、質のよいものを譲ってくださるでしょう。
「母に頼めば、喜んで陛下に献上すると思う。ただ、陛下のお言葉を鑑みると、私が持って来て渡すよりは、きみが直接温室の中から選んだ方がいいのだろうな」
付き添うよ、と軽く言われて、目をしばたたく。
「よろしいのですか?」
「もちろんだとも」
「でも、お忙しいでしょう。わたしからももちろんお願いのお手紙を差し上げますが、先触れさえ出していただけましたら、わたしひとりで伺いますが……」
夜に女王のおそばに侍るわたしと違って、メルバーン卿は昼間が多忙な仕事。いくらご実家とはいえ、準備もなしに帰るとは思えない。
仕事だって調整して空けなくっちゃいけないし、と気遣ったつもりの発言は、ジュディス文官、と厳しい笑顔で止められた。
「仕事とはいえ、お客さまをお招きするのに、付き添わない理由はないよ。ましてや勝手知ったる家だ。私をものの道理の分からぬ愚か者にしないでくれ」
ハイ、すみません。逆に評判を下げるんですね。やめます。