真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
重く降りた沈黙に、こちらに向き直ったメルバーン卿が、優しく微笑む。


「陛下のお誕生を祝して、手稿を差し上げたと聞いたよ」

「え、ええ」


わたしにできることは、言葉を選ぶこと。お贈りするなら文字がよいと思ったの。


陛下につけていただいた先生のこともあって、陛下のおかげで身についた知識や学びを活かした贈り物がしたいと、私訳の手稿をお贈りした。


わたしが陛下にお褒めいただいたのは、字のうつくしさ。


言葉は、並べ方、選び方によって、輝かしくもさりげなくもなる。


辞書に並んでいるときよりは、確実にうつくしく見えるように。

陛下の眼差しに映るものごとを、優しく彩るように。

ふとしたときのお慰めになるように。


願って祈って、声に出し、書いてみて、眺めてみて。

丁寧に、うつくしく。讃美歌を歌うような、旗を織るような気持ちで、ひとつずつ。


過剰に飾り立てるのではなく、率直で気取りのない語彙を意識した。

できるだけまろやかな言葉を散りばめながら、うつくしいものを寿ぐ長く古い詩を訳し、ふさわしい紙とインクを選んだ。


努力の甲斐あって、陛下のお気に召した手稿は、額装されて飾られている。
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