真珠の首飾り、あるいは女王の薔薇
衛兵に声をかけてギイと開かれた門をくぐり、公爵家の敷地に入ると、途端に道がよく整備されて穏やかになった。広い庭園は細やかに手入れされ、上品に整えられている。


しばらく進み、大きな門扉の前に横付けして馬車が止まった。


メルバーン卿の手を借りて馬車から降りる。失礼ながら諸々の対策で名乗れないので、カーテシーをするだけに留めておく。


執事は心得たようにこちらに折り目正しく返礼し、メルバーン卿に向き直ってから、柔らかく口元を緩めた。


「お帰りなさいませ、ウィリアム様」

「久しいな。こちらは母の客人だ。到着の先触れを頼む。話には私も同席する」

「かしこまりました」


執事が中に入ってしばらく、準備が整ったと応接間に案内された。


「奥さま、お二方がいらっしゃいました」


すごい。失礼にならない範囲で、うまく誤魔化してくれている。

本来ならば部屋の主人への呼びかけには客人の名前を呼ぶところだけれど、わたしの名前を大っぴらにするわけにはいかないので、人数で伝えてくれた。


「お入りいただきなさい」


扉の向こうから女性の声がして、慌てて礼をする。少しくぐもっているけれど、公爵夫人に違いない。
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