犬系男子の犬飼くんは私にすごく懐いてます
唯一手前の猫二匹が惜しい位置には来ているものの、まだ落ちる気配はない。
「犬飼くん無理しないでいいよ」
「大丈夫! ここは俺が…って、また失敗!」
そろそろ辞め時な気もするけど。頑張ってる犬飼くんの姿を見てると無理に辞めさせるのも気が進まない。
うーん…。
「あっ、じゃあ私もやっても良い?」
「え、瑠夏も?」
「うん。私も欲しいし、犬飼くんには今日沢山楽しい思い出をもらったから」
そして、場所を譲ってくれた彼の隣で今度は私がボタンを操作する。
ガシッ。
開いたアームが閉じる。
猫本体に触れてはいないけど、私が狙ったのはそこじゃない。
「あっ、もしかしてタグ狙い?」
「うん、アームがちょっと緩そうだったから」
犬飼くんの操作してた様子を見てたから。憶測でしかないけど、上手く引っ掛かれば取れるはず。
「お?」
そして、予想通りタグがアームの先に引っ掛かってくれた。
「おおっ!」
さらに、偶然一匹の猫が宙に浮いた瞬間。
その衝撃で近くにあったもう一匹の猫が先に落下し、アームで運ばれたタグを掴まれた猫も見事景品の出口に仲良く落ちてきた。
「やった! 取れたよ犬飼くん!」
「すごいよ瑠夏!」
私と犬飼くんは両手でイェーイと、ハイタッチを交わす。
「てか、普通に上手すぎるよ! 俺タグとか狙う技術持ってないし」
「あはは、偶然だよ」
「しかも2匹って、俺の出る幕なかったな」
「ううん、犬飼くんが最初やってくれた分取りやすくなったんだよ?」
「そう? なら良かった」
私は景品口の猫を取り出す。
「はい。犬飼くんにもあげる」
「えっ、俺ももらって良いの?」
「うん、犬飼くんも欲しいって言ってたでしょ」
私は手に取った内の一つを犬飼くんに差し出した。
「あれは、建前というか。瑠夏に良いとこ見せたかっただけで。…でも、さっきの瑠夏すごくかっこよかった」
「そうかな。ありがとう!」
ゆっくりと犬飼くんの手が猫に伸びる。
「じゃあ、もらっとくね」
「うん。あ、でもお揃いになっちゃったんだけど」
今回取ることができたのは、手前にあった三毛猫の2匹。全く一緒の猫だった。
「これがいい! 大切にする」
嬉しそうに笑う犬飼くんは大事そうに猫を掌にのせた。
「この2匹。仲良さそうにくっついてたから、同時に取れて良かった」
優しい笑顔で見つめる。
今日のデートの記念…。なんて、烏滸がましいよね。だけど、私もこれは大切にしよう。
「学校の鞄に付けようかな…」
「あっ、それ良いね。俺も付けよう」
「……」
深い意味はないんだろうけど、お揃いって本当のカップルみたい。
でも、記念っていったらやっぱり。
「犬飼くん…。私もやりたい事あるんだけど」
「いいよ! なにやる? お菓子系のクレーンゲームとかもあるみたいだけど」
「あ、クレーンゲームじゃなくてね」
私は人差し指でその場所を示した。
「…あれ」
「あれって、プリクラ?」
「うん、どうかな」
犬飼くんなら駄目とは言わないと思うけど、いざ自分から誘うのはドキドキする。
犬飼くんも今日私を誘う時、こんな気持ちだったのかな。