犬系男子の犬飼くんは私にすごく懐いてます
瑠夏の想い
次の日の昼休み。
1人の友達が私に言った。
「ねぇ、瑠夏ってさ。隣のクラスの犬飼くんと付き合ってるの?」
「えっ…」
「何それ! 詳しく」
教室で机をくっつけて仲の良い美奈ちゃんを加えた四人でお弁当を食べていると、不意にそんな事を聞かれる。
美奈ちゃんの方を見ると、「私じゃない!」と、首を横にぶんぶん振っている。美奈ちゃんは昨日のことは誰にも言ってないみたい。
それなら、どうして知ってるんだろう。
「なんかさー。さっき隣のクラスの子に聞かれたんだけど。昨日街中で2人でいるとこ見たんだって」
「そういえば、少し前から仲良さそうだったもんね犬飼くんと瑠夏」
「…うん」
昨日は本当に楽しかった。
犬飼くんとの距離が近づいた気がして嬉しかった。
いつか、彼に自分の気持ちを伝えたいと今では思ってる。
だから、これからは私も犬飼くんみたいに自分から話しかけてみようかと意気込んでいたのに。
「それで、その後どうしたの?」
美奈ちゃんがそれとなく話の続きを聞いた。
「いや、声かけられた時にさ、写メ見せられたんだけど。ほら、これ」
「あっ…」
見せられたのは、私と犬飼くんが2人で歩いているところだった。
「わっ! 手繋いでるじゃん。いつの間にそこまでの関係になってたの?」
「ち、違うの! 確かに2人で遊んでたけど、付き合ってるとかじゃ…」
「海野さん」
写真のことについて説明しようとしたところで背後から声がした。
「あ、さっきの」
と、スマホをしまいながら言った友達の言葉を聞いて。
私と犬飼くんのことについて聞いていた人物が、この人なのだとすぐにわかった。
制服を着崩した明るめの髪の生徒。
隣のクラスと合同になる体育の授業でも、目立っている人だったから見覚えがあった。
「守とのことで、ちょっと聞きたいんだけど」
「…えと、うん」
犬飼くんのことを下の名前で呼んでいるから、彼と親しい間柄の人だというのが伝わってくる。
そう、だよね。犬飼くんは格好良くて優しいし、彼のことが気になる女の子だって私だけじゃないと思うし。
「単刀直入に聞くけど、海野さんって守と付き合ってるの?」
「…付き合ってない、けど」
私は目を逸らしながらぽつりと呟く。
本当の事だけど、なんだか少し寂しく感じてしまう。
「そう、じゃあどうして昨日守と一緒にいたの?」
そうして、先程見せられた写真を彼女のスマホでもう一度見せられる。
「ちょっと、この事に関しては私たちが口出しするような事じゃないでしょ」
「美奈ちゃん…」
私を庇うように、隣に座る美奈ちゃんがその子に向かって言った。
「そうだね。でも、最近守を遊びに誘っても俺には瑠夏がいるからって断られるんだよね。それってさ、付き合ってるからなんじゃないの?」
「だからってわざわざ瑠夏を問い詰める必要ないじゃん」
犬飼くん、やっぱり他の子にも好意を向けられてたんだ。
「別におかしな話しじゃないでしょ。守が何も言わないなら、直接海野さんに聞きに来たんだから」
「だからって、こんな風に追い詰めるような言い方…」
「美奈ちゃん、私大丈夫」
「瑠夏…」
私が間に入り、ヒートアップしそうな場を収めようとする。
「ていうかさ、今私が話してるのは海野さんなんだから邪魔しないでくれる?」
「っ! 邪魔って、大切な友達が一方的に責められて黙ってる人なんていないよ!」
美奈ちゃんが珍しく大きな声で言い放つ。
ざわざわ。
…あ。
私たちの様子を見て、クラスの何人かがこっちを見てる。
あまり大事にはしたくないな。
「ねぇ、海野さんは守と2人で遊んでたみたいだけど、ただの友達なんでしょ?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ、本当に付き合ってないんだよね」
「……うん」
なんだろう。この気持ち。