犬系男子の犬飼くんは私にすごく懐いてます

「守っ!?」

 すごく焦った表情を浮かべた犬飼くんが、急いで私たちの方へ来る。

「な、何って。守が海野さんとの事教えてくれないから…」
「だからって、瑠夏に迷惑かけていい理由にはならないだろ」
「でも、」
「いいから離せって!」

 犬飼くんの怒鳴り声を聞いて、私の手首を掴んでいた手が離れる。

 そして、犬飼くんが私の前に立つ。

 犬飼くんが怒ってるところ、初めて見た。

「ご、ごめん瑠夏。大丈夫?」
「う、うん。平気だよ」

 手首を抑える私に余計にあたふたする。

「なんで守が謝るの! 謝る必要なんてないじゃん!」

 私の手を離しながらも、それを見ていた彼女が言う。

「だって、海野さんは守の事なんとも思ってないんだよ!」

 …そんな事、私言ってない。
 明らかにさっきの強気な態度と違って彼女からは焦りが見える。

「なのに、帰りはいつも一緒だし、遊びにも行ってさ。そんな思わせぶりな態度ばかりとって何様って感じなんだけど」
「いいからやめろって!」

 私の方を向いたまま、犬飼くんは続ける。

「瑠夏が俺の事どう思ってたっていい。なんとも思ってなくてもいい。俺が瑠夏のことを好きなのは変わらないし、現に一緒にいてくれるんだから。俺はそれで満足なんだよ…」

 苦しそうな顔で、そう言う。

「犬飼くん…」

 犬飼くんは、本当に私のこと…。

「正直、一目惚れだった。落とし物を拾ってもらって好きになるなんて思いもしなかった。小学生かと思われるかもしれないけど、俺は初めて会った時から瑠夏のこと気になってたんだ」
「守…。でも、海野さんは」

 私は一歩前に出た。

「違う…」
「は?」
「瑠夏…?」
「思わせぶりなんかじゃないよ」

 一呼吸おいて、ゆっくり息を吸い込んだ。

 犬飼くんは優しい。だから、友達として接してくれているだけ。私も、最初はそう思ってた。

「私は、犬飼くんが好きです」

 付き合えなくてもいい。ただ一緒に、傍にいたい。

 でも、友達としているだけじゃ駄目だというのなら。それが許されないというのなら今ここで私の気持ちを伝えよう。

「迷わないで最初からちゃんと言えば良かった」

 私の気持ちは、とっくに決まってたんだ。

「いつからとかはわからないけど、気付いたら好きになってたの。私は、犬飼くんの事が好きだよ」

 自然と涙が溢れてくる。

 どうしてだろう。気持ちを抑えるのが辛い。
 いつか言えればと思っていたのに、我慢ができない。

「犬飼くん……大好き」
「…瑠夏」

 犬飼くんの大きな手が私の手にそっと触れる。

「今の、本当?」

 私はぎゅっと目を瞑って頷く。

「まじか……。夢じゃ、ないよね」

 私が目を開けると、犬飼くんは顔を真っ赤にして口元を手で隠していた。

「俺、瑠夏に振り向いてもらえなくてもいいって思ってた。近くにいれるならそれでいいって」

 私と、同じだ。

「でも、瑠夏と過ごしているうちにそれだけじゃ満足できなくなって。気持ちが抑えきれなくて」

 それも同じ。

「だからこそ分かるよ。瑠夏が思わせぶりな態度を取るような子じゃないってこと」

 そして、犬飼くんの手に力が籠った。

「瑠夏、ちゃんと言葉にするのは初めてだけど、俺も好きだよ。いや、俺の方が絶対好き!」
「犬飼くん…。ありがとう」

 限界だった。
 溢れた涙がさらに溢れて、それが頬を伝って流れる。

「俺も、ありがとう」
「!」

 犬飼くんの優しい腕が私の身体を包み込んだ。

 すごく、心地良い。

 私も、それに応えるように彼の背中に手を回した。

「…守」
「で、こんな2人を見ても関わるなとか言うわけ?」
「…っ! べ、別にそんな事言ってないし!」
「いや言ってたし」

 そんな美奈ちゃんと相手のやり取りが薄らと聞こえ、ひとまずその場は丸く治ったようだった。

 正直それどころじゃなくて、周りの状況が全く分からなかったけど。
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