犬系男子の犬飼くんは私にすごく懐いてます
「でも俺、瑠夏の連絡先知らない…」
「あっ、じゃあ。ちょっと待ってね」
「?」

 私は通学用鞄からメモ帳を取ってペンを走らせる。

 そっか、犬飼くんとはクラスが違うからこういう時に連絡先がないと不便だよね。

「これ、私のチャットのID」
「えっ、いいの?」
「うん」
「やった! 大切にする!」
「あはは…。ちゃんと登録して使って欲しいかな」

 メモを大事そうに掲げている犬飼くんに私は笑って答える。

 犬飼くんは私にとって高校に入って初めての男の子の友達。
 入学してからまだ一ヶ月だけど。クラスの男の子は大人しい人が多くて未だに女の子の友達しかできずにいた。

 でも、そんな時に明るい犬飼くんが現れたんだ。
 彼の好意を無碍にするわけにもいかないし、私も友達としての関係を続けていきたいと思うからこそ、今日も一緒に帰ることを了承する。

 でも、どうして犬飼くんは毎日私のところに来るのかな?

「ねぇ、犬飼くんはクラスの友達とかとは帰らないの?」
「うん。俺は瑠夏と帰りたかったから」
「!」

 優しくはにかむ笑顔で言われ、顔が熱くなる。
 思わず顔を逸らした自分に焦る。

 そんな面と向かって恥ずかしいことを言われるとは思わなかった。

 美奈ちゃんがあんなこと言うから、つい意識してしまう。

 犬飼くんは顔も整っているし、壁を作らないタイプだから。人当たりもいいし、きっと男の子だけじゃなくて女の子にも人気あるんだろうな。

「瑠夏は、俺と帰るの嫌?」
「っ!」

 くぅん。とでも聞こえるような悲しそうな表情。

 うぅ、そんな顔しないで〜。

 そう言われたら、つい甘やかしたくなってしまう。

「そんなこと、ないよ」

 これは本心。
 男の子と一緒に下校するのにはちょっとした憧れもあった。

 高校生になって、ちょっと大人になったこともあり恋愛にも全く興味がないわけじゃなかった。
 だから、犬飼くんとの時間は素直に嬉しい。

 迷惑をかけられているわけでもないし…。
 ただ、男の子が相手だから少し緊張しちゃうだけ。

「ほんと?」
「本当だよ。犬飼くん優しいし一緒にいると私は楽しいよ」
「やった! 俺も瑠夏といると楽しい!」

 パァッと表情が明るくなって、まるで尻尾を振って喜ぶ仔犬みたい。
 名前の印象もあるけど、犬飼くんを動物に喩えるなら犬以外には考えられないかも。

 美奈ちゃんが言ってたことを信じるわけじゃないけど、こんなに喜ばれると私も色々期待しちゃうな。

 けれど犬飼くんからは別に告白とかもされてる訳ではないから。いくら一緒にいても私たちはただの友達。友達としての関係しかないんだ。

 彼氏とか出来たことないから分からないけど。でも、もしいたら帰る時はこんな感じになるのかな…。
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