犬系男子の犬飼くんは私にすごく懐いてます

「……」
「……」
「……」
「…あの、犬飼くん?」
「……」
「犬飼くん!」
「…えっ、あっ」
「もう大丈夫だよ」

 改札口の辺りまで来たところで、犬飼くんは私の肩から手を離した。

「…ごめん。触っちゃって」
「ううん、助けてくれてありがとう」
「いや、遅れた俺が悪いから」

 そう謝る犬飼くん。

「全然だよ! 早く着いたのは私だし、それに犬飼くんも早かったよ。約束の時間には遅れてないんだし」
「そうだけど…。俺が先にいたら瑠夏のこと怖い思いさせずに済んだから」
「あっ…」

 そっか。犬飼くん、そのこと気にして…。

 私は、下を向く犬飼くんの手を握った。

「えっ、瑠夏?」
「まだ、ちょっと怖いから。こうしててもいい?」

 私にしては大胆な行動だったと思う。
 おかげで、少しだけど手汗をかいているような気がした。

 だけど、シュンとしている犬飼くんがいつもと違って大人しかったから、ついこうしたいと思ったのかもしれない。

「…うん。わかった、絶対離さないから」

 私たちは改札を潜る。

「私、今日楽しみだったんだよ」
「ほんと?」
「うん、だから早く着いちゃった」
「っ! 俺も! 俺も、瑠夏が好きそうなとこ探すのとか超楽しくて、早く今日にならないかなって思ってた!」

 いつもの元気な笑顔を見せてくれる犬飼くんに手を引かれる。

 少しは、元気になってくれたかな。

「じゃあ、少し早いけど行こう!」
「うん!」

 私たちは、電車に乗って目的地の街の方を目指した。
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