世界で一番好きな人
私より細いんじゃないかという腕で、優しく抱きしめられる。



「…ごめんね、梓。いつも梓に辛い思いばかりさせて」


「…どうしたの、急に?別に私なら大丈夫よ」


「それでもきっと、隠している本音はたくさんあるよね。…梓と俺は似たもの同士だから。本当に言いたいことはいつも隠しちゃう」



少し、千春の声が震えていた。


抱きしめられているから、千春がどんな顔をしているのかはわからなかった。



「…大丈夫よ。私は大丈夫。千春がいればそれでいいの」



小さな子どもをあやすように背中をポンポンと叩いてあげる。


千春は私なんかよりもずっと辛くて苦しい思いをしているはずだから。


私の本音なんかを言って、これ以上苦しめたくない。



「…俺も、梓がいてくれるおかげで毎日幸せだよ。好きだよ、梓」
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