世界で一番好きな人
にこっと優しく笑う一ノ瀬くんは、とても病人なんかには見えなかった。



「ごめんなさい。結局日直の仕事まで手伝わせちゃって…」


「いいよいいよ。暇だったし」


「あ、おわびとして教科書持って帰るの手伝おうか?仮にも病人なんだから、重いもの持たない方がいいわ」


「んー大丈夫だよ。課題で必要なものだけ持って帰って、他は学校に置いていくつもりだからそこまで重いってわけじゃないし」


「でも…」



手伝わせてしまったのに、何もお礼をしないなんて申し訳なかった。


だからといっていいお礼の内容もわからず、どうしようかと悩んでいると一ノ瀬くんが「あ」と呟いた。



「そんなにお礼がしたいなら、明日の放課後保健室来てよ。明日から学校来れるんだけどさ、何かあった時のためにしばらくは保健室登校なんだ。せっかく学校来てるのに誰とも話さず帰宅なんて寂しいでしょ?だから、村井さんが俺の話し相手になってよ」



私に向けられた優しい微笑みに、また胸がドキドキとうるさかった。


もしかしたらこの時にはもう、千春に恋をしていたのかもしれない。



「あ、村井さん!今日掃除当番代わって…」


「ごめんなさい!私、約束があるから!」



終礼が終わると同時に教室を飛び出し、保健室めがけて走る。


別に一ノ瀬くんはどこにも行かないというのに、それでも一分一秒でも早く会いたかった。
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