世界で一番好きな人
そんなの嘘だった。


千春がいない毎日は、とっくに色を失って苦しいだけだった。



「先生。これ、千春さんから預かっていたものです。千春さんは、自分に何かがあった時にこれを先生に渡すようにと言っていました」



一条さんから封筒を受け取り、中から折り畳まれた紙を取り出す。


指が震えた。最後に千春が私に残してくれたものだから。



だけどそれは、私のギリギリ保たれていた心を一瞬で引き裂くとても切ない手紙だった。



「…千春は、何も私のことをわかってない」



千春がいなきゃ、私は幸せになんてなれないのに。



「私は千春といられればそれでよかったのに…っ。いつから…っ、気持ちがこんなにすれ違ってたんだろ…っ」



もうたくさん流したはずの涙はまだ枯れることなく、とめどなく溢れて止まらなかった。
< 140 / 168 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop