世界で一番好きな人
「え?」


「いつまでも梓を縛り続けている俺も、相当性格が悪いよ。…本当はわかっているんだ。俺はもう長くないって。梓のことを本当に思うなら、早く別れるべきだって。…でも、できない。好きだからこそ、離したくないんだ」



もしも、私が千瑛と別れたら。そんなこと、想像もしたくない。


村井先生に気持ちがあったとしても、別れられないのは私も同じだ。それは、好きだから。



「だから、茉莉花ちゃんは千瑛と別れないで。茉莉花ちゃんといる時の千瑛のあんなに幸せそうに笑う顔、俺は初めて見たんだ。梓と同じように、千瑛にも今までたくさん我慢をさせてきた。兄らしいことなんて何一つできなかったけど、千瑛のことは本当に大切に思ってる。千瑛のことを、これからも支えてあげてほしいんだ」


「…はい」



千春さんと比べて、私は贅沢者だ。


好きな人と毎日会えて、手を繋いで外を歩けて、どこへだって行ける。



「もしもどうしようもなく苦しくて、耐えられない時は思ってることを全部伝えること。…それが俺はできないから。梓に本当に伝えたいことは、いつも隠すことしかできないんだ」



千春さんが泣きそうな顔で優しく笑った。
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