世界で一番好きな人
「悪い、待たせたよな。なかなか抜けられなくて、こんな時間になっちゃった」


「大丈夫だよ、まだ七時だし」



三日振りに見た村井先生は、だいぶ憔悴しきっていた。


無理もない。私ですらまだ、千春さんがもうこの世にいないなんて実感が湧かないんだから。



「ごめんなさいね、一条さんに心配かけちゃって。千瑛くんから聞いたわ。すごく心配してくれてるって。でも少しずつ気持ちの整理もついてきたし、今はだいぶ落ち着いたわ」



無理して笑う村井先生に、なんて声をかけたらいいのかわからなかった。


今日こうして呼んだのも、千春さんから託された手紙を渡すためだが、本当に渡していいのかわからなくなってくる。



だけど他でもない千春さんが、何かあった時に渡してと言っていたから。その気持ちを無視するわけにもいかない。



「先生。これ、千春さんから預かっていたものです。千春さんは、自分に何かがあった時にこれを先生に渡すようにと言っていました」



村井先生は、震える指で封筒を受け取ると、中から折り畳まれた白い紙を取り出した。
< 86 / 168 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop