世界で一番好きな人
千春さんは、自分がもうすぐ死んでしまうことに気づいていたのかもしれない。


あの時、私に手紙を渡してきた千春さんの手も同じように震えていた。



「…千春は、何も私のことをわかってない」



村井先生の手から紙が滑り落ち、先生はその場に泣き崩れてしまった。



「梓…!」



子どものようにわんわんと大声で泣く村井先生を、千瑛が必死になだめている。


開きっぱなしだった手紙は、先生に手紙を渡してしまった私を後悔させるには十分だった。




–––––梓へ。

あずさといた時間を俺は決して忘れません。

いっぱい幸せをあげたかった。でも、もう俺は一緒にいられないから。

しあわせになって。世界中の誰よりも。

てをつないで色々なところに行きたかったね。

るびーの指輪をあげる約束も、守れなくてごめんね。

ようやく俺はあずさを解放してあげられる。

あずさと付き合えて、俺はすごく幸せだったよ。

ずっとそばにいてくれてありがとう。

さいごに、どうか俺のことは忘れて生きてください。


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