帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません
「芙優」
呼ぶ声に振り返ると、大我が走って追いかけてくるところだった。
「どうしてここにいるの」
「今日商店街の定例会だって聞いてたからさ。俺と同居してる芙優が今出向けば、間違いなく敵扱いされるのわかるだろう。でも商店街の敵は…俺だけで十分だ」
「私は、敵とか味方とかじゃなくて、双方の橋渡しをしたいだけなの」
商店のみんなの気持ちも、大我の事情も、私ならば双方の言い分を理解して程よい着地点を見つけることができる、そう思っていたけど、とんでもない思い違いだったのだ。
「やっぱり大我さんの家から出る。大我さんには悪いけど、誤解されるのは辛い」
「それはダメ。無理。俺だって芙優を離したくない」
「ねえ、困らせないで?」
大我は体をひねって離れようとする私を無理やり抱きすくめた。大我が体にまとう、ふんわりとした空気に触れるなり、どうしても安堵につつまれてしまう私がいる。
「大我さんの腕の中は、なんでこんなに優しいの?」
思わず拳を握り締めて大我の胸を叩いた。
「ねえ、なんで大我さんは、大我さんなの?」
いつの間にか泣きじゃくっている。
「どうした芙優…」
「私…大我さんを、どうしようもなく好きになっちゃったの」
「芙優…」
「でももちろん、商店街の人たちも大事。かといっておじさんたちの肩を持ったら、大我さんの仕事の邪魔になってしまう。私どうしたらいいんだろう」
大我の大きな手のひらが、ぽふんと私の頭に乗せられた。髪を撫でられる優しい手つきに、余計にさらさらと涙がこぼれてしまう。
「何もしなくて大丈夫。商店街との折衝も任せて」
「私がいなくても、うまくいくってこと?」
「そうじゃない。今は俺が、芙優をどうしても必要としてる。お願いだから今は、俺のそばに居て」