帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません
終章
諦めの時?~芙優side~
───美丘市役所で、美丘駅周辺再開発の住民説明会が開かれることになった
そう八神さんが教えてくれたのは、それから一か月ののちのことだった。
「私も出席したい。いいかな八神さん」
「ええ、あなたがそうしたいなら」
八神さんにひそかに相談すると、彼は穏やかに答えた。
せめて、商店街の最後はこの目で見届けたい。そう思った。
会場に行くと、すでに座席に座っていた商店主たちが振り返った。
「芙優ちゃんしばらく。元気だったか」
会長が微笑む。
「ご無沙汰しちゃって、ごめんなさい会長、私…」
「いいんだ、いいんだ。芙優ちゃんには新しい生活があるんだから」
会長は私に向かって何度もこくりこくりと頷いた。「芙優ちゃん『には』」と言う響きが、妙に冷たく胸に刺さる。
「芙優ちゃんは、次期社長と結婚するのかい。おめでとう」
先輩一同が微笑んだ。
「結婚なんてそんな。ただ、住む家がないから間借りしてるだけ…」
そう言うと、なぜか一同がどっと笑った。
「ほらみろ、こりゃ次期社長のひとり相撲だ。芙優ちゃんがあんなボンボンに惚れるわけねぇわな」
「ねえ、一体なんのこと?次期社長って鳳条さんのことだよね」
私は事態がつかめず、目を白黒させて、嬉しそうに笑うおじさまたちを見まわした。
「そうよ。あいつぁ仕事終わると、夜な夜な商店街の店を出入りしてよ、酔っぱらって、どうしたら芙優ちゃんを落とせますか、って絡んできてさ。こっちも大変よ」
会長は意外にも、なんだかうれしそうだ。
そこに大我が現れ、会場の入り口で一礼した。
「お、噂をすれば鳳条のボンボンだ。今日は直々にあいさつと来たか」
輝くような仕立ての良いスーツから一変、今日はポロシャツにチノパンと言うラフなスタイルだ。フォーマルな印象はないけど、内側から滲む気品は隠せない。
いつになく爽やかないで立ちに、商店街の女性たちからため息交じりのどよめきが起きた。
「今日は私から、まちづくり計画の変更の説明をさせていただきます」
大我が言うと、参加者たちが口々に期待と不安を漏らし始めた。
「計画変更だって?ボンボン、いまさら何する気なんだ」
商店の人たちは、再開発に対して相変わらず敵意を抱いている様子だけど、なんとなく大我との距離が近くなっているように感じられた。
「どうか、俺の話、聞いてください」
懇願するように大我が言うと、ざわめき始めた会場を収めるように、穏やかに会長が言った。
「まあ…とにかく聞こうか、次期社長の話を」