帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません
同窓会の会場は、ホテルの大きなバンケットルーム。
きらびやかな会場で、華やかな装いに身を固めた友人たちと近況を話しあった。
キャリアを積んで活躍する子、結婚して裕福な家庭の妻になった子、事業を立ち上げた子。
見た目だけでなく経歴までもが眩しくて目が眩みっぱなしだ。
よくよく思い返してみれば、私が卒業した私立大学は、もともと裕福でかつ優秀な学生たちがひしめき合う華やかな場所だった。
女手ひとつで育ててくれた祖母が、一生懸命受験勉強する私を見て、無理して入れてくれたのだ。
外見だけでなく内面からも輝いて見える友達にかこまれて、自分だけが一人くすんで見えて肩身が狭い。
教鞭を持っていた頃ならば、この場にいてもまだ釣り合いが取れたかもしれない。
けれども今は、小さな鯛焼き屋を細々と営む、しがない自営業…。
「鯛焼き屋さん?すごい。実業家じゃない」
ゼミで仲良くしていた薫は、微笑んで言った。
「そんなんじゃないの。おばあちゃんから継いだ小さいお店だから」
「鯛焼きって原価率どのくらいなの?」
経済学部出身だけあって、質問の内容がシビアだ。
「まあ、持ち家だから自分が生活していくくらいの利益はあるかな…で、薫は?」
何か言いたげにそわそわしている薫に水を向けると、
「実は私、婚約したの。あのひとと」
「ええ!?お、おめでとう」
婚約指輪が輝く手で指し示した先にいたのは、学生だった当時私が密かに思いを寄せていた、健だった。
健は薫の隣に立って、私に向かって照れ臭そうに微笑んだ。
教員採用試験の勉強をしていた頃、彼は国家公務員試験を控えていて、互いに励まし合った仲。
「合格したら二人で遊びに行こう」…当時交わした軽い口約束が、まだ有効期限内だと思い込んでいた私。穴があったら入りたい。
あまりに突然の報告に気持ちが付いていかないけれど、とにかく二人に向かってにっこりと笑顔で祝福した。
「芙優は、結婚は?」
「こんな仕事だから、出会いがなくって」
幸せいっぱいの笑顔で薫に尋ねられ、正直に答えると、なんとなく場が白けてしまった。
「結婚式、呼んでよねっ」
笑いながら言って薫の肩をたたいて、二人に手を振って背中を向けた。
バンケットルームを出て化粧室に入り、ため息を一つ。
鏡の向こうに、普段は見せないしょぼくれ顔の自分がいた。
かすかに期待していた自分が悲しかった。
みんなスケールの大きい仕事をしたり、運命的な結婚をしたり、キラキラしている。
それに比べて私は…
うつむきそうな顔をあげて鏡を見つめ、両方のほっぺたを叩いてみた。
これは私が自分で選んだ道。自信持たなくちゃ。ねえ、おばあちゃん…
なんとなく会場に戻る気も起きず、そのまま外に出た。ラーメンでも食べて帰ろうかな。
シャンパンで酔いが回った私は、ふわふわとした足取りで新宿の雑踏を駅に向かって歩いた。
横断歩道が青に変わり、人の流れに押されるように渡り始めた直後、不意に地面に足を取られた。
マンホールの蓋の小さな穴に、見事にヒールが刺さっている。抜こうとしたけど靴が足から外れ、転んだ拍子にアスファルトに膝を打ち付けた。
「いたっ」
座り込んだ足元を見ると、ヒールが折れた靴が寂し気に転がっていた。
あーあ。泣きっ面に蜂とはこのことだ。