帝国支配目前の財閥御曹司が「君を落とす」と言って、敵方の私を手放してくれません
そして、二人で~芙優side~
説明会を終えた会場から人々が流れ出ていく。ほっとした和やかな表情の人、明るい笑顔の人…以前のように曇り顔の参加者は誰一人いない。
大我を探して会議室を出ようとすると、八神さんが聞いて欲しい話があると言って私を引き留めた。
「大我さんは連日、社長をはじめ、社内を説得して回っていたんです。
次第に味方が付き、最後にはこの計画にゴーサインが出た。
市役所との折衝も、大我さん自ら行いました。
商店街に出向いて地元の人たちの話を聞いていたりもしていたんですよ」
「早朝から深夜まで働き詰めだったのは、この計画変更のためだったんですね」
私が言うと八神はうなずいた。
「“魅力あるハードを用意すれば、そこに人は集まり、街ができる“、
そう言って、金に糸目をつけない開発事業を展開するのが、お父様の街づくりでした。
けれども息子の大我さんはこう言っています。
“街は建物で出来ているんじゃない。そこに住む人で出来ている”と。
あなたと、街の人々との出会いを通して、彼は自分の信念を見つけ出したんです」
八神さんは言って少し誇らしげに微笑むと、にぎやかな方向に視線を移した。
いつの間にか大我は、商店街婦人部のおばさまたちに囲まれて楽しそうに談笑している。
私の視線に気づくと、照れ臭そうに微笑んで見せた。
*
それから半年がたち、商店街会員、建設会社、自治体の合意の覚書が取り交わされ、建築計画の承認も出た。着工を控えた鳳条建設では、決起大会が開催されることになった。
ホテルの会場には社員や関係する事業者の幹部たちがひしめき合っている。
私はこの日のために大我が準備してくれた上質なワンピースを身に着けて、鳳条財閥の総帥である大我の父親にあいさつをした。
「こんなにかわいいお嬢さんが、この『きかんぼう』息子の恋人とはな…」
からかい混じりにお父様は大我を肘で突いた。
「本当に何も知らないですが、これから私、精いっぱい勉強します。よろしく願いします」
私は緊張でカチコチに固まる体を折り曲げて深く頭を下げると、社長は私の言葉を切るように言った。
「芙優ちゃん、頭を上げて。
実は大我は、君と言うパートナーを得てから見違えるように成長したんだよ。
私がこれまで息子に求めてきたのは、自らの意志と情熱で仕事に臨む姿勢だ。
大我の仕事に対する姿勢を変えたのは、間違いなくキミだよ。
これからもよろしく頼むよ」
お父様はにっこりとほほ笑んだ。私も思わず、その顔を見て笑顔がこぼれた。
「ありがとうございます」
パーティーが終わったのは、日付が変わる少し前だった。
最後のお客様とあいさつを終えると、大我は長いため息を吐いた。
「やっと芙優とふたりになれる」
バンケットルームを出て、エレベーターホールまで手を引かれた。
スイートルームへ上がると、リビングスペースに置かれたテーブルの上に美しい花が飾られ、シャンパンのボトルが冷やされていた。
窓から見下ろす夜景に見とれながら、初めて会った日のことを思った。あの時は抑えきれない衝動に駆られるように、せわしなく、激しく求めあった。あれから一年、衝突したり励まし合ったりしてここまでたどり着いた。
振り返るとそこには、いままでにないくらいゆったりとした表情でほほ笑む大我がいる。
大我は膝まづいて、小さな箱を差し出した。
「…芙優、俺と結婚して?」
「はい」
箱から取り出した大きなダイヤの指輪が、指に通される。
長身の大我の首にとびついて、腕を巻き付けた。大我は私を抱きしめ、ぶら下がった格好の私を左右に揺らしながら言った。
「これでやっと、ほんとうに俺のものだ」
*
翌朝目を覚ますと、リビングスペースのガラス製のテーブルに、大きなプレゼントの包みが置かれていた。
「芙優、それ、開けてみて?」
あとから起きてきた大我がガウンを羽織りながら、ベッドルームから出てくると、言った。
開くとそこには、「つきしま」で使っていた古い鯛焼きの鋳物鍋と、軒先にぶら下げていた鯛の形の小さな袖看板があった。
「大我さん、これ、救出してくれてたの?」
「うん。芙優ももちろん、新しい商店街でお店、続けるだろ」
「いいの?」
「だって、子供たちの集まる場所がないと」
「ありがとう…大我さん」
私は大我に飛びついた。抱き留めてくれた大我の体は、初めて抱き合った時よりもはるかに逞しく思えた。
大我を探して会議室を出ようとすると、八神さんが聞いて欲しい話があると言って私を引き留めた。
「大我さんは連日、社長をはじめ、社内を説得して回っていたんです。
次第に味方が付き、最後にはこの計画にゴーサインが出た。
市役所との折衝も、大我さん自ら行いました。
商店街に出向いて地元の人たちの話を聞いていたりもしていたんですよ」
「早朝から深夜まで働き詰めだったのは、この計画変更のためだったんですね」
私が言うと八神はうなずいた。
「“魅力あるハードを用意すれば、そこに人は集まり、街ができる“、
そう言って、金に糸目をつけない開発事業を展開するのが、お父様の街づくりでした。
けれども息子の大我さんはこう言っています。
“街は建物で出来ているんじゃない。そこに住む人で出来ている”と。
あなたと、街の人々との出会いを通して、彼は自分の信念を見つけ出したんです」
八神さんは言って少し誇らしげに微笑むと、にぎやかな方向に視線を移した。
いつの間にか大我は、商店街婦人部のおばさまたちに囲まれて楽しそうに談笑している。
私の視線に気づくと、照れ臭そうに微笑んで見せた。
*
それから半年がたち、商店街会員、建設会社、自治体の合意の覚書が取り交わされ、建築計画の承認も出た。着工を控えた鳳条建設では、決起大会が開催されることになった。
ホテルの会場には社員や関係する事業者の幹部たちがひしめき合っている。
私はこの日のために大我が準備してくれた上質なワンピースを身に着けて、鳳条財閥の総帥である大我の父親にあいさつをした。
「こんなにかわいいお嬢さんが、この『きかんぼう』息子の恋人とはな…」
からかい混じりにお父様は大我を肘で突いた。
「本当に何も知らないですが、これから私、精いっぱい勉強します。よろしく願いします」
私は緊張でカチコチに固まる体を折り曲げて深く頭を下げると、社長は私の言葉を切るように言った。
「芙優ちゃん、頭を上げて。
実は大我は、君と言うパートナーを得てから見違えるように成長したんだよ。
私がこれまで息子に求めてきたのは、自らの意志と情熱で仕事に臨む姿勢だ。
大我の仕事に対する姿勢を変えたのは、間違いなくキミだよ。
これからもよろしく頼むよ」
お父様はにっこりとほほ笑んだ。私も思わず、その顔を見て笑顔がこぼれた。
「ありがとうございます」
パーティーが終わったのは、日付が変わる少し前だった。
最後のお客様とあいさつを終えると、大我は長いため息を吐いた。
「やっと芙優とふたりになれる」
バンケットルームを出て、エレベーターホールまで手を引かれた。
スイートルームへ上がると、リビングスペースに置かれたテーブルの上に美しい花が飾られ、シャンパンのボトルが冷やされていた。
窓から見下ろす夜景に見とれながら、初めて会った日のことを思った。あの時は抑えきれない衝動に駆られるように、せわしなく、激しく求めあった。あれから一年、衝突したり励まし合ったりしてここまでたどり着いた。
振り返るとそこには、いままでにないくらいゆったりとした表情でほほ笑む大我がいる。
大我は膝まづいて、小さな箱を差し出した。
「…芙優、俺と結婚して?」
「はい」
箱から取り出した大きなダイヤの指輪が、指に通される。
長身の大我の首にとびついて、腕を巻き付けた。大我は私を抱きしめ、ぶら下がった格好の私を左右に揺らしながら言った。
「これでやっと、ほんとうに俺のものだ」
*
翌朝目を覚ますと、リビングスペースのガラス製のテーブルに、大きなプレゼントの包みが置かれていた。
「芙優、それ、開けてみて?」
あとから起きてきた大我がガウンを羽織りながら、ベッドルームから出てくると、言った。
開くとそこには、「つきしま」で使っていた古い鯛焼きの鋳物鍋と、軒先にぶら下げていた鯛の形の小さな袖看板があった。
「大我さん、これ、救出してくれてたの?」
「うん。芙優ももちろん、新しい商店街でお店、続けるだろ」
「いいの?」
「だって、子供たちの集まる場所がないと」
「ありがとう…大我さん」
私は大我に飛びついた。抱き留めてくれた大我の体は、初めて抱き合った時よりもはるかに逞しく思えた。