淫夢でも溺愛されたい! 〜サキュバスは隣人にガチ恋する~
ここまで麻里奈に興味を示さない男のことを理解するのはもはや困難だった。
なにをどうすれば戸倉瑞樹がこちらを向いてくれるのか皆目検討がつかない。

思わず狭いエレーベターの中で「チッ」と舌打ちをしてしまった。
その小さな音は静かなエレベーター内で大きく響く。

すると今まで麻里奈へなんの興味も示していなかった戸倉瑞樹がようやく麻里奈へ視線を向けた。
「嫌なことでもあったんですか?」

その声に抑揚はなく、表情も無表情だった。
けれど戸倉瑞樹から声をかけられたことで麻里奈の不機嫌は一気に吹き飛んでしまった。

ここでなにか言わなければと頭をフル回転させている間にあっという間にエレベーターは一階に到着してしまっていた。
「い、いえ違うんですぅ。別に不機嫌とかじゃなくてぇ」

麻里奈がようやく話を切り出した時にはすでに戸倉瑞樹は麻里奈に背を向けて歩きだしていた。
当然さっきの言葉も聞いていない。

スタスタと大股で歩いていく戸倉瑞樹の後ろ姿を見送って、麻里奈は大きく肩を落としたのだった。
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