落ちこぼれ魔女・火花の魔法改革!〜孤独なマーメイドと海の秘宝〜
おてんばな魔女
第1話
ジリリリリッ!!
寮の一室に、けたたましいベルが鳴り響く。
「うむむ……もう朝なの~……さっき寝たばっかだよ……どゆこと」
私はもぞもぞとシーツの隙間からサイドテーブルに手を出した。
音の根源である目覚まし時計を探し出すと、パチッと消してまたシーツの中に潜り込む。
「むふふ。あと十分だけ……」
再び夢の中へ戻ろうとしていると、部屋の扉がバーンッと開いた。
「火花! また二度寝してるな!」
「ぴぎゃっ!?」
な、なにごと!?
雷のように轟いた声に、慌てて飛び起きる。
玄関のほうを見ると、ムッとした顔で仁王立ちする男の子がいた。
「ノ、ノノノアくん! ……おはよう! 起きてたよ!」
すらっとした長身に、さらさらの髪と整った顔立ち。
彼はノアくん。ノア・マークベル。
私と同じステラフィア魔法養成学校の中学一年生。私とノアくんは、実は幼なじみなんだ。
「……ったく火花。堂々と嘘をつくな。ほら、今すぐ起きる。さっさと着替えて顔洗って歯磨きしろ。急がないと食堂置いてくぞ。朝ごはん抜きだぞ~」
「わわっ、待って~!」
私は寝癖がついた髪を押さえつけながら、急いで朝の支度を始める。
「急げ~」
わわわっ、まずい! 全然今日の授業の用意してなかったよ~!
「ノアくんお願い、手伝って~!」
「ったく仕方ないな……。もういいから、火花はとりあえず着替えてきて。教科書の準備は俺がしておくから」
「やった! ありがとう、ノアくん! 大好き!」
口からなめらかにその言葉が出た。
「っ!」
すると、ノアくんはなぜかぽぽっと頬を赤くした。
どうしたんだろう?
「? ノアくん? なんか、顔赤いよ? もしかして熱?」
「あっ……赤くないし!」
頭を掴まれ、ぐりんと強制的に前を向かされた。
「いいから、早く着替えろバカ!」
「むぅ。バカってひどい……」
言われなくても分かってるよ。
まったく。せっかく感謝したのに意地悪なんだから、もう。
ノアくんは頭が良くて、魔力も強いしっかり者の男の子。
おまけにとっても顔が整っていてカッコいいんだ。
普段はクールで、クラスメイトとあまり群れないノアくんだけど、私とだけはお話してくれるんだ。
幼なじみの特権ってやつなのかな?
……って、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった! 早くしないと朝ごはん抜きになっちゃう! もしそんなことになったら、私午前中の授業生きて乗り越えられないよ~! 急がなきゃ!
急いでクローゼットから制服を取り出すと、脱衣所に向かう。
制服に着替えを済ませると、部屋にある大きな鏡の前に立つ。
私が身にまとっているのは、白色を基調にしたクラシカルなジャンパースカートの制服に、銀色の大きな襟付きケープ。
ケープの留め具はきらきら輝く金色で、まるで夜空に浮かぶ星みたいな形をしている。
鏡の前でくるっと一回転してみせると、中に写った私は一瞬首を傾げたものの、親指を立てて頷いた。
『うん、大体おっけーだねっ』
よし。身だしなみ合格判定いただきました。
この鏡は、魔法の鏡。
寮を出る前に身だしなみのチェックをしてくれるんだ。
ただ、チェックの厳しさは鏡の所有者である本人(私)の性格に準ずるらしいから、私の鏡はちょっと緩めかも。
たまに靴下履き忘れてても合格って言うときあるから、あんまり信用できないんだよね。まぁ、私が大雑把なのが悪いんだけどさ。
「ノアくん、準備できたよ~」
「あぁ、こっちもできた。ほれ」
「ありがとう~!」
ノアくんからカバンをもらって、ローファーを履く。
――と。
「って待て火花、ロイヤルクロックは?」
「えっ?」
腰のベルトを見る。……なにもない。
「まずっ! 忘れてた! 待ってて、すぐ持ってくる!」
危ない危ない。
私は慌てて部屋に戻って、勉強机に放り出されていたロイヤルクロックを取りに戻る。チェーンを制服のベルトにつけて、あらためて魔法の鏡を見ると、写った私が舌を出している。
『てへっ。ごめん、見落としたっ!』
もうっ! なんのための身だしなみチェックなのよ!
いつも思うけど、鏡の中の私までおっちょこちょいじゃなくたっていいのにね。
ロイヤルクロックっていうのは、魔法学校の生徒全員に配られている魔法を使うための必須アイテム。
アンティーク感漂うアールデコ調の懐中時計で、英数字の間にぱらぱらと散りばめられた宝石は夜空にきらめく星空のよう。
制服のベルトにつけておけるよう、ケープと同じ黄金のチェーンがくっついているスペシャルなアイテムなんだ。
ノアくんは私のベルトに懐中時計のチェーンがあることを確認すると、「よし。行くか」と立ち上がった。
「うん!」
ノアくんの後に続いて廊下に出る。と、ノアくんが振り返った。
「……ほうき、忘れるなよ」
「あっ!」
……うっかりしてた。
「ったく……」
「えへへっ」
玄関に置いてあったほうきを掴み、私は元気よく部屋を出た。