落ちこぼれ魔女・火花の魔法改革!〜孤独なマーメイドと海の秘宝〜
脱走!!
第21話
部屋に戻ると、私は力なくベッドにダイブした。
「あぁ~」
枕に顔を埋めて、声を出す。
ダリアン……結局あのあと、食堂に戻ってこなかったな。ごはん、ほとんど手をつけてなかったのに。
今頃なにしてるだろう。
泣いてないかな……。
ふと、幼い頃みなしごだとからかわれたときのことを思い出した。
あのときは、すごく悲しくて、悔しかった。「」
言葉で傷つけられる痛みを知ってたはずなのに、なんであんなこと言っちゃったんだろう。
「ダリアン……ごめん……」
言ってしまったことは消せないけれど、できることなら、ちゃんと顔を見て謝りたい。
でも、ダリアンは私の顔なんか見たくないって言うかなぁ。
ずーんと心が沈む。
今さら後悔しても遅いのに、後悔が止まない、いやな気持ち。
ふと、窓が目に入った。
窓の外には満点の星空がある。
今日、昼間に見た暗い深海の景色を思い出す。
「……クラスメイトを傷付けているようじゃ、シュナを助けることなんて絶対できないよね……」
今日はなにもかも上手くいかない。
授業も、友達関係も……。
どこかへ身を投げ出すように投げやりに目を閉じると、ふとクジラの歌声が聴こえた気がした。
「…………そういえば……」
シュナの声ってなんとなくクジラの歌声に似てたなぁ。
線が細くて……なんていうか、黄金色の糸がいくつも束になったような、神秘的な声だった。
「……あれ。歌声?」
そのとき、なにか大切なことがちらっと脳裏を過った気がした。
しばらく考え込み、そして……。
「あーっ!!?」
部屋でひとり、大声を上げる。
そうだ! そうだよ!
あのとき、イルカはグラアナの居場所は知らないって言っていた。
けど、よくよく思い出して。
『歌を歌うとやってくるって噂だよ』
「歌ーっ!!」
そうたしかに言ってた!
イルカ、しれっと呼び出し方教えてくれてたじゃんっ! なんであのとき気付かなかったの、私!!
ぴょんっとベッドから飛び降りる。
急いで制服に着替えて、鏡の前でくるっと回る。
笑顔の私からゴーサイン。
玄関に置いてあるほうきを手に取り、ふぅ~っと息を吐いて、吸って。
「よしっ」
気合を入れた。
「こういうときは行動あるのみだよねっ!」
うじうじ悩んでたって、なんにも変わらない。それなら動いたほうがマシ!
門限なんて知らないっ!
今は門限よりも、シュナの声が大切!
私は窓を開け放ち、こっそり(?)空へと飛び出した。
アヤナスピネル寮の前をほうきで飛んでいると、ちょうど窓を閉めようとしたドロシーと目が合った。
ハッ! ヤバッ!
「えっ! 火花ちゃん!?」
ドロシーは大きな目をカッと見開いて、驚いている。
あちゃ~みつかっちゃった~!
「あっ、ドロシーごきげんよう」
私はほうきに乗ったまま、少しだけ窓に近付いた。
「ちょっと火花ちゃんてば、なにしてるの? もうすぐ門限の時間だよ!?」
う……。
仕方ない。ここは素直に言おう。
「ちょっと、海に行ってこようかなと思ってね」
「海って、今から!? ダメだよ、また怒られちゃうよ!」
ものすごい勢いで止められる。
まぁ、門限を思いっきり破るわけだし当たり前か。
「でもねドロシー、私思い出したんだよ!」
「思い出したって、なにを?」
「イルカの言葉! グラアナは、マーメイドが歌を歌ってると奪いにやってくるって言ってたでしょ! だから、本とかグラアナの居場所なんて探さなくてもよかったんだよ! マーメイド姿で歌えば、きっとグラアナは来るよ!」
「ダメダメダメッ! そんなの危な過ぎるよっ!」
「大丈夫だって! とにかくそういうわけだから! 私、今からグラアナを倒してくるね!」
「火花ちゃんっ!?」
私はドロシーにぱちんっとウインクひとつ残して、星降る空へ高く昇った。
「火花ちゃん、カムバーック!!」
***
ざざん。ざざん。
夜の海はしんとして、どこまでも深い闇色をしている。
波の音が全身にぶつかり、さざめいた。
はるか遠くの海面で、なにか大きな生き物が跳ねた。と同時に、キュイッと可愛げな声がする。
「クジラ……じゃない、あれはイルカかな?」
今はマーメイド姿じゃないから、あの子がなにを叫んでいるのか分からない。
イルカの言葉を思い出す。
『歌を歌うとやってくるって噂だよ』
あのときイルカは、たしかにそう言っていた。
ほうきを握る手に力がこもる。
正直、囮になるのはちょっぴり怖い。
けど……。
グラアナを倒してシュナの声を取り戻すんだ。そして、星の原石を手に入れたらそれを分け合ってダリアンと仲直りする。
うん、完璧な仲直り計画。
頑張れ、私。
怖がってちゃなんにも手に入らないんだから。
一度深呼吸をすると、ステッキを振った。
「マジカル・ロジカル! マーメイドになれっ!」
星のシャワーが暗い世界に降り注ぐ。
「いざっ!」
ドボンッ!
尾ひれをなびかせて、私は深海へ向かった。